第1章 恋する腐れ縁

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「細さで言ったら、祉摩ちゃんだって職業柄抜群だろう。 お前と血がつながっているとは 俄かに信じられない程洗練された顔立ちだしな。 今度の子は、祉摩ちゃんと同業じゃないのか?」 久助の妹は、パリコレにも出演経験のある有名モデルなのだ。 先日二か月ぶりに帰国したということで、 久助を介しメールでの誘いも受けていたのだが、 つい読み流してしまっていた。 いつまでも返らぬ答えに焦れた祉摩にせっつかれ、 とうとうこうして兄が公私混同の協力依頼に差し向けられた。  その兄にも思惑があり、 祉摩がパリで知り合ってどうあってか共に帰国してきた女性に、 一目惚れをした、と言う。 これまでも、幾度久助がこうして悶えて見せたか、 ひとつずつ思い出すのは不可能に近いと、 机上に転がる万年筆を指に遊びながら、 呆れを通り越しもはや尊敬だと一人頷く。 対象は新卒の婦警、たまたま寄ったコンビニの店員や、 ジムの女性トレーナーまで多岐に渡り、 この節操のなさは いつか身を崩させるのではないかと心配になるほどだった。
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