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本人も疑惑気味、だけどそんな彼女はお茶目で可愛いらしかった。彼女の笑顔は、何処か寂しげで、なのにとても嬉しそうに人形(友達)を見ている。
「……人形が友達、素敵だと思います」
「違うのよ、この子達はね……」
首肯では無く、否定をする彼女は軈て部屋の隅に置かれていた古びたフランス人形を見遣った。おもいれのある物なのか、かなり使い古されている様だ。
月明りに照らされた真夏、逆光を帯びた女の眼が怪しく輝く。茶色い瞳が虚ろに、それ(人形)を見つめたのだ。そうして彼女は涙を目に浮かべ、はっと壁掛け時計の方を向く。
「っ、大変。もうじき雨が降るわね、もう暗いし、送るわね」
言って、涙を手のひらで拭う女は私を見て優し気に笑みを魅せた。美しくも華奢な彼女の体格が影により繊細なシルエットを描く、細い身体には清楚な白いワンピースが纏われていた。
胸元に光る、赤い宝玉がきらりと月明りを帯びてよりいっそうに耀いて、女は口元を緩ませながら嬉々として此方に手を伸ばす。
「……またね、お嬢ちゃん」
「あの、また来ても良いですか、えっ……?」
そして、彼女は確か、またね。と言っていた、偶然にも二人で同じ事を考えていたようだ。やはり、不思議な雰囲気を漂わすこの人はとてもお茶目で可愛らしかった。
それが、私と彼女との出会いであり、奇妙で奇怪な夏の白昼夢だったのかも知れないが。例えゆめだとしても、わたしはまたあの女性と会えることを願っている。
きっと、次に会えた時に約束を果たすと誓って私はこんな思い出を今しがたに振り返っているのだから。女はバルコニーから月夜を眺め、妖美に微笑みを浮かべながら此方に手を振る。
懐かしい思い出に、私はぎゅっと胸が締め付けられた、この感情を素直に伝えるのならこれは淡く甘酸っぱい恋なのか。まさか、同性にそんな感情を抱くなんて、気付きもしなかったのが少しばかり寂しかった。
「……は、元気かな。また、会いたかったな」
途切れて、かき消えて行く私の声。目の前にある鏡にその容姿が映し出されて、間も無く、わたしはその顔が酷く不細工なものだなと自暴した。
八月一日、その日は蝉が合唱をする、悲壮に鳴くせみ達の声が静かなものへ変わると少女はゆっくりと瞼を閉じた。
「りぃちゃん、会いに来たわよ、そう。眠ってるのね……」
『来てくれて、ありがとう』
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