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始まり、なんて言葉は要らない。ただ欲しかったのは、永久という概念を消し去ってしまいたかった。不条理にも、世における理なんて常に決まっている、その一つが未だにある人種格差だ。
降(くだ)らない考えを止め、女は小さな溜め息を漏らす。夜空に浮かぶ満月は金色に輝き、街並みを照らしていた。こんな日には歌を唄いたくなる、だけど梨衣はもう居ない。
「……わたしは、りぃちゃんの友達で居られたのかしら?」
悲壮に呟き、その言葉が如何に自身の胸を締め付けるのかさえ知らずに、わたしは目の前に在る美しい少女に目を奪われていた。梨衣、そう教えて貰えた名前は彼女に相応しいとよく思っていた。
『梨衣は死んだ、だから、もう私達に関わらないで!』
(あぁ、懐かしいわ。そうだったわね、何度目になるかしら……?)
否、何人目からそう虐げられてきた事か。思い返すとへどが出そうで、いかに人間が醜いかなんて見透かしたことだ。それに比べたら、梨衣は心が綺麗だったのだが。
「大好きよ、りぃちゃん……」
本当に友達だと、心から思えたからこそ、彼女は何よりも誰よりも梨衣を好きで居られたのだ。けど、そんな存在は周りからしてみたら同性等と毛気らわれるのも無理も無かった。
だが、女は人を愛する感情を知らないままに大人へと育った、それは歪んだ愛情かも知れないが。それでも、梨衣だけを好きでいた、しかし次第に一筋の純粋な恋心は複雑にメランコリーとして行く。
「千切れたのは、友情か愛情か。分からないわね」
再び次を探すしかないのだろう、女は友達を探していた。けれど、友情さえ何かと知らない無知の彼女はただ、思い悩むしかなかった。何時しか、自身の命が尽きてしまう前に、色々な自由を噛み締めたかったと言うのに。
「またね、りぃちゃん。私の11人目の友達……」
その声音が嘶くと共に、外を通じた窓から風が入り込む。先程までは気にも止めなかった噎せ返るような鉄の臭いが漂い、今更にもなり彼女は顔をしかめた。床には散乱した様々な刃物類が、雑多に散らかっている。
裏切り者は、殺すしかない。それが、彼女の答えではある、だけど女が犯人では無かった。こんなにも惨い有り様にしたのは、全て少女の母親の仕業だったのだ。
「りぃちゃん、私が連れて帰ってあげるわ。だから悲しまないで……」
小さな囁きが、室内に歪に響く。
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