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第七十話水戸語りと新撰組の鴉
月明かりの空。
威厳漂う武骨な男と、男につき従う美しい女は水戸城に向かって歩いていた。
「…鴨はん…嬉しくはあらへんの?あないに憧れてはった光國様に御呼ばれしはったのに…」
茜色の長い髪を結わえ、きらびやかな桃色の着物を着た女性が尋ねる。
芹沢梅。
生前、幕末の京で前川邸にいた所を土方達に暗殺された蕎麦屋の妾。
懇意にしていた芹沢と共に祝言を上げ、身籠った腹を撫でながら小首を傾げる。
「…水戸に居を構え、天狗党を光國様より任された身とは言え…将軍家に連なる者がお会いなられるような身分では無い。
俺は郷土の生まれだが、武士でもない。
…礼儀知らずな土方は別としてな…故にどうお会いして良いのか分からぬのだ」
難しい顔をして、白髪の髪で短髪、薄葉色の着物に青い袴を着た青年が悩みを吐露する。
芹沢鴨。
元壬生浪士組局長で、土方らによって暗殺されたが…
歪んだ時代で、光國からの命令を受け天狗党を指揮している。
「普通にお会いすれば良いんや無いの?…難しく考えるから行けませんよって…」
笑って梅は芹沢に言う。
「そうそう…俺を振り回す感じで堂々とすれば?」
二人の後ろから、小さな少年が茶化す。
赤い髪で短髪、赤いきらびやかな着物を着た少年。
赤麗繁光。
芹沢が所持する鉄扇の刀剣ならぬ刀扇。
見た目とは裏腹に怪力の持ち主。
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