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水戸徳川家の駕籠に送られ、家に着いた三人は…
「…」
「…」
梅と繁光はじぃーっと、芹沢を見詰めている。
「…なんだ?」
不愉快そうに芹沢は尋ねた。
「…土方はんらに殺されたんやから…恨みもごっつうあると思うてましたんやけど…案外芹沢はんは御優しゅう好い人やなぁって思うてましたんや」
珍しそうに梅はぽつりと言う。
「…俺も…だって気位が高い鴨が背中の傷を受けて死んだんだぜ?
そりゃ恨んでるって思うっしょ?」
繁光も力強く頷いて力説する。
「お前らな…ったく…恨んでないと言えば嘘になる。
だが、愛奈が居るなら話は別だ。
…愛奈を守ると考えれば自ずと手を差し伸べねばなるまいて」
少し顔を赤らめながら言うと、芹沢は先に家の中へ入って行った。
「…なぁ…繁光はん?」
「梅?なんだ?」
「芹沢はんは…あないに怖い顔でいてはりますやから…確かに性格も不器用だと思います。
そやけど…根は優しゅう人でおりますえ。
…土方はんらに芹沢はんの人柄を分かって頂けたら…運命も変わりましたやろかって思うて叶わんどす」
寂しそうに梅は繁光に言った。
「あの幕末の京では…派閥争いが常だった。
…理解したとしても、土方は殺しただろうさ」
苦笑して繁光は梅に言うと空を見上げる。
叩き付ける長い雨。
稲光と共に立ち尽くす沖田と土方…
倒れて動かない鴨と梅…
俺は何も出来なかった…
見てるしか出来なかった…
土方と沖田は泣いていた。
慕っていたのは知っていたよ。
「俺は嫌だよ…あんな斬り合う悲しい結末はさ」
ポツリと繁光は呟く。
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