第七十話水戸語りと新撰組の鴉

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一方鉾田の宿場町では… 「…注文されておりました酒をお持ち致しました」 障子越しに声を掛けられ… 「はいはーいっ!今開けますね!!」 スパーンッ 鯰尾は元気良く障子を開ける。 「っ!?」 障子を開けた途端、酒を持って座る女性の隣に… 黒髪の髪を結わえ、黄色い着物を着た幼い少女?を見て固まった。 「鯰尾?」 気になった元春が駆け寄る。 「厚…?」 震える声で鯰尾は口にした。 「よっ!鯰尾兄っ!久しぶりだな」 ニカッと笑って厚は腰に手を当てる。 「吉川元春様とお見受け致します…どうか平静を装いそのままお聞き下さい」 頭を下げたまま、女性は低い声で元春に言う。 「っ…!?」 女性が男だと分かり元春は目を見開く。 「近くの宿屋に…我々の仲間である坂本と申す者達が御待ちしています。 どうか、兄君と弟君を御説得なされた後に御出下さい」 頭を下げたまま女性?は元春に頼む。 「何者だ…貴様は…?何故粟田口の短刀と一瞬に居る?」 怪しみながら元春は女性?に問い掛ける。 「…この宿屋にも…松永の忍が居ります故…今は御答えする事が出来ません」 声を潜めたまま、女性の?は元春に答える。 「…何…?」 女性?に言われ、元春は周辺に目を配る。 すると、初老の男性客や、宿屋に従事する女中達が此方を見ている事に気付いた。 「では…またお会い致しましょう」 笑って女性?は微笑み… 「じゃあな!鯰尾兄っ!」 無邪気に笑って厚も手を振る。 「えっ?ちょっと待って!厚っ!?」 慌て鯰尾は駆け寄るが… シュンッ 女性?と厚は一瞬で姿を消した。 見張っていた宿屋の女中と初老の男性客も一瞬で姿を消す。
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