第七十四話虎吠える歌舞伎者の大一番

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「何と…そんな闘いが…して、神と松永はどうなったのですか?」 ザンッ 頼光から聞いて、頼宏は後ろから来た山賊を振り返り様に斬り捨てながら尋ねる。 「髭切が神を追い詰めたのだが、信長と長谷部に斬られ実体を失った松永を喰らい力を得られ逃がしてしまったのだ。 …推測だが、恐らく山賊の頭領の傍らには…神の手下が居るかも知れない」 難しい表情をして頼光は高次に答えた。 「…そうでしたか。…しかし喰らって力を得るとは厄介極まりないですね」 頼光から聞いて高次は複雑な表情になる。 ザシュッ 「神とは名ばかり…もはや妖怪と変わらないんじゃないか? …全く雅じゃないよ」 目前の山賊の頭を跳ね、歌仙は眉間に皺を寄せる。 『頼朝様、やはり我々も加勢致さなくては…』 薮の中から顔を出し、弁慶は頼朝に言うが… 『…加勢したいのは山々だが、愛奈が居ない…。 …高次に口付けすれば人間に戻れるかも知れんが……口付けしたら最期…頼光様に斬り刻まれるだろう』 青ざめた顔をして頼朝は弁慶に答えた。 『?』 目を見開き、弁慶は絶句する。 …我が嫁に…口付けするとは良い度胸だ。 …斬り刻んでくれるわっ!! 弁慶の脳裏に、普段のイメージから掛け離れた凄まじい形相の頼光の姿が浮かんだ。 『…格なる上は膝丸か岩徹に口付けし…元に戻るより他ないだろう』 頼朝は目を細め言った。 『…究極の選択…ですね。くっ…確かに足手まといよりは…それがマシかと…』 冷や汗混じりに弁慶も頷く。 『だが…如何せん勇気が出ない。正子以外に口付けは嫌だ。しかも膝丸だぞ?義経の刀剣だろ…』 『頼朝様!御気持ちは分かりますが…世迷い言を申して居られる場合ではありますまいっ!』 嫌な頼朝に、弁慶は懸命に説得する。
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