第八十一話毒華と魔王の秘めた隠し事

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信長は月夜を見詰め一人考え込む。 …我は……神子田に躍らされてなど居なかった。 あれは我の意志で浅井を滅したまで… 深く息を吸うと、ゆっくり吐き出し過去へ思考を巡らせるのだった。 『何が言いたい?』 岐阜城に尋ねて来た神子田に、信長は怪訝そうな表情で問い掛ける。 『もう一度申し上げます。…浅井に二心あり』 目を細め、神子田は信長に堂々と答えた。 『出任せを申すでないわっ!』 調度品として飾っていた鞘から鶴丸を引き抜き、素早く信長は神子田の首筋に切っ先を突き付ける。 『恐れながら…出任せなど申しておりませぬ。 此方を…』 笑って神子田は、袂からきらびやかな鶴と亀が描かれた帯の切れ端を取り出す。 その切れ端には、血が大量に着いていた。 『…その着物は…』 カタンッ 着物を見た途端、信長は鶴丸を畳に落としてしまう。 市の懐妊祝いに、信長が京の老舗着物屋に赴き…自ら柄を決め創らせた特注品の着物だったからだ。 『…市様を浅井長政は夜毎折檻し、痛め付け牢にて軟禁するなど…おぞましい愚行を繰り返しております』 表情を変える事無く神子田は告げる。 『…我が妹を痛め付けるとは…是非にも無し!!…朝倉を攻めた後に浅井を討つ』 神子田に命令を下し、信長は踵を翻すのだった。 しかし、現実は思う通りに事を運ばせてはくれない。 浅井と朝倉に挟撃され、金ヶ崎から逃げる途中銃弾を受け… 我は浅井に手を下すのが遅れに遅れた。 市の状況を知る度に怒りが溢れ、秀吉を筆頭に浅井を攻めて滅ぼした。 助け出された市の身体はボロボロで…手足の自由さえ効かず…治療を続けても思うように治らなかった。 トラウマを思い出す度に苦しむ市が忍びなく…恋仲だった竹中に会わせる事すら出来なかった。 一刻も早く…この国を統一し外国と交易を重ねる事で最先端の治療を市に受けさせたかった。 昔見たいに自由気ままに笑って欲しかったからだ。 だが、それさえも敵わなかったが…我の誤算は、気が狂うた竹中に明智が操られ討たれた事… 狂うたが故に理性を失うと人は変わる。
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