一、理玖と太

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ただならぬ程殺気立った二人を、すぐにでも引き離さなければ何かとてつもなく危険なことがおきる予想がした。 ヒロトも必死で二人を抑えようと、理玖が太を、太が理玖を殴ろうと振りかぶった腕を掴んだ。全身から湧き出す力をその腕に込めて、筋肉は燃え血管は膨らみ、 憎しみや恨みやさまざまな憎悪を抱え込んだ拳は震え、それぞれの敵に照準を定め三者の力のバランスがほんの少しでも崩れた瞬間、 一気に爆破するまさに「三すくみ」のような状態ではあったが、彼らがそれと違ったのは、細く長い脚。 ジタバタする危うい足元は絡み合い、もつれ合い・・・ 「ヒロト・・・離せ・・・今日コソ理玖を・・・」 「ヒロト・・・離せ・・・今日コソ太を・・・」 「ダメだって、怪我するよ。理玖も退学になったらどうするの。」 ヒロトのその一言で、理玖はふと我に返ってしまった。 ほんのちょっと・・・ほんの一瞬、 力を緩めただけだったが、そのほんのちょっとでバランスを崩した三人の体は、マリア様のステンドグラスを打ち破り、空に飛び出した、あの踊り場で掴んでいた手も、握り締めた制服の襟もそのままの同じ体勢で、ゆっくりと、ゆっくりと・・・ 粉々になった色のガラスが日を受けてキラキラと花火のようにきらめいて、それも一瞬止まったかのように見え、きれいだなと思った次の瞬間、すべてを追い越して3人の体は地面にたたきつけられた。 おそろいのカバンとともに。
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