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ヒロトは瞳でうなづきクレタと肩を並べ歩いた。太と理玖も二人に続き、またまたバスに乗りかなり歩いたあと1軒のアパートに着いた。ここも父親、母親と二、三歳くらいの子供が一人、ここも幸せに溢れかえったという感じだった。
「ちょっとまて、アレ・・・ヒロトの母親だろ。」
ヒロトは少し波目でその家族を見ていた。
「ママが幸せそうでよかった。」
「よくない。病院でヒロトが待っているのにほったらかしかよ。」
「大丈夫だよ。僕は。はじめから来ないことはわかってた。」
「いつからだ。ヒロトはいつから一人で暮らして居る。」
「理玖がばあちゃんのところに行ったころくらいかな・・・」
「なぜ言わなかった。」
「言えなかったんだよな…」
ヒロトの頭を撫でた太も涙目になっていた。
「何か知らせる方法はないのか?」
「いい。知らせなくって次行こう。」
「さっきみたいに中に入って触ってくるか・・・」
高いところから声がすると思ったら、クレタが少し離れた塀の上に座っていた。
「いい。」
ヒロトは首を大きく横に振った。振り返ったままの姿勢で、小さな子供をあやす母親を微笑んで見つめた。
「ヒロト・・・」
太はヒロトの肩を抱いた。
「僕はパパもママもあんなふうに笑わせてあげられなかった。二人が幸せになってよかった。」
理玖も二人を包み込むように抱いた。理玖も太も、ヒロトがこんな辛い思いをしていたなんて思ってもみなかった。いつも隅っこでぼんやり、ニコニコしているのがヒロトだと思っていたから、辛い部分はまったく気づかなかった。申し訳ない気持ちを言葉にできず、強く抱きしめた。
「さあ行こう。そろそろ入り口が開く頃だ。これからさきは絶対俺の言う事を聞けよ。いいな。」
そう言ったが、クレタは初めての事で不安だった。クレタは理玖の上から三人を抱きしめた。この先どうなるのか、なにが起きるのかわかっていない四人が円陣を組んでいるようにも見えた。
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