33人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
「遅かったな。何か見たのか?」
クレタはまるで、自分の家に帰ってきたかのように、リラックスしてベッドに横になり頬杖をついて言った。
理玖は少しうなづくとコロッケののった皿を太の前においた。
「おおコロッケ。理玖のばあちゃんのコロッケちょーうめえんだよ。」
「え、なんで知っているの。」
ヒロトは太の顔を覗きこむとコロッケを1個取って横を向いて食べた。
理玖はジュースをコップに注ぎ、太の前に差し出して、今までに一度も言ったことのない言葉を言った。
「ありがとう。」
「なんだ、急に気持ち悪い。」
太は眉間にシワを寄せて怪訝そうに言ったが、理玖は言葉こそかけなかったが太を見つめる顔は笑っていた。
ヒロトとクレタはそんな二人を気にすることなく、無心で競うようにコロッケを頬張った。
お腹いっぱい食べた四人が、ベッドに持たれ並んで座って、少し眠気もあっりボーっとしていた時、まるで映画でも、見るようにあの日のヒロトが部屋へ入って来た。
あの日・・・それは、一緒に太のサッカーを見に行ったあの日だ。
ヒロトはタンスの引き出しを開けて一番奥にしまってあった、あの派手なブルーのシャツを見つけて笑った。
いっしょに袋に入っていた白いパンツと並べてなおさら笑い、
「コレならグラウンドにいる太にもはっきり見えるわ」そう笑い続けた。
「ヒロト・・・」
理玖も太も隣に座っているヒロトの顔と、目の前にいる幻影のヒロトを交互に見た。
それはまだまだ続いて、サッカー場でも、太の様子を伺いながら理玖の手をマッサージし出した。
ヒロトのその時の表情、心の声も聞こえてきた。
ヒロトは爪を噛みながらがたがた震えはじめた。
【絶対、太は僕らを見ている。理玖と仲良くしていたら、絶対やきもち焼いてイライラするはずだ。楽しい。太がイライラしてミスしてサッカーやめちゃうかも。おもしろい!】
「嘘だ。こんなの嘘だよ。僕、こんなことしらないよ。」
「わかってるよ。ヒロト、こんなことヒロトが思う訳がない。幻覚だよ。」
太はヒロトの手を取ってポンポンと二度、軽く叩いた。
「太…僕…サッカーやめちゃえとか思ってないよ、僕。」
「わかってるよ。ヒロトの事は俺が一番よく知っているから、大丈夫だって。」
最初のコメントを投稿しよう!