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三、戦うことになる
「しっかり落ちないように歩けよ。」
三人が”あっ”と気ずいた時は、透明の階段を登るように少しづつ地面から離れていった。
「どこへ行く気だよ。」
「もうすぐ理玖のばあちゃんの家だ。そこで休憩しよう。」
どう行った道のりでそこに着いたのかは、わからない。
ただクレタの後についてまっすぐ来ただけなのに、なぜか理玖が前住んでいた祖父のレストランの二階の部屋に着いた。
部屋は、中学生の理玖が使っていた時のままになっていた。
本棚の本も机の上に広げた参考書やノートもそのままだった。
「ちゃんと全部持って帰ったはずだけどな。」
「この部屋は今日の部屋じゃないんだよ。」
「なんか、不思議だ・・・俺が勉強しているのが見える・・・」
「ああ、ホントだ。」
「頑張ったな俺。」
夢を追い続け無心に勉強していた頃の健気な自分が、突然、あんな事になるなんて、まったく哀れでならなかった。
「なんか飲みもの持ってくるよ。」
涙が出そうになり、部屋にいるのが耐えられず、階段を下た。
店を覗くとそこには誰もいなかったが、なぜか揚げたてのコロッケが山のように積まれていた。
「おお、コロッケ。」
その皿に手を伸ばしたとき、パッとカーテンを引いたように営業している店の光景が広がった。店に入って来たのは、まだ中学生の時の太。
母親と一緒にカウンターの端っこの席に座り、コロッケの定食を頼んだ。
理玖のばあちゃんと太の母親が話しをしていた。
「近所にいた時は喧嘩ばかりしていたのに、離れると、元気にしているか見に行くって。」
「理玖は二階で勉強しているから、行っといでよ。」
「いい。」
「じゃあ、呼んでこようね。」
「いい。」
「なんで、せっかく来たのに・・・」
「いい。元気なら。いい。それと、俺が今日ここへ来たことも、理玖には言わないでほしい。」
「どうして・・・」
「どうしても。」
太はコロッケをたべ終わるとさっさと帰って行った。
理玖はここへ引越しして太のことを思い出すことなんて、ただの一度も一瞬もなかった。
そもそもが太と離れたくて ここへ逃げたのだから、それももっともだ。
けれど、太は憎まれ口を叩きながらも理玖のことは忘れてはいなかった。それどころか、いなくなった後も理玖のことが気にかかってここまで見に来たのだった。
結局は会わずに帰ってしまい、祖母にも聞くこともなく、太が訪ねてきたことも知らずにいた。
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