松田亜矢①

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「亜矢ちゃん。宜しくお願いします」  そう言って紙コップを亜矢から見て左から赤、青、緑、オレンジの順に並べ後ろを向いた。  普通簡単には個人情報を他人には言わないのだが、相手に自己紹介をされ情報を与えられると、立場が不平等になったと責任感を感じ、答えてしまう事がある。ましてや今回こちらは職業まで教えているので、下の名前くらいならまず教えてしまうのだ。  また名前を聞いたのにも理由がある。人は名前で呼ばれる事で警戒心が弱くなる効果がある。下の名前だとその効果は更に上がる。特に女性の場合友人同士でも下の名前で呼ぶ事のほうが多いので、下の名前で呼ばれる抵抗も少ない。 「じゃあまず幾つか質問をさせてもらいます。1つ目、好きな食べ物は何ですか」    落ち着いた口調でゆっくりと聞いた。 「好きな食べ物ですね。えっと……イチゴかな」  少し悩みながら、亜矢は右方向に視線を向けて答えた。 「好きな食べ物はイチゴっと。てか俺もイチゴ好きだわ。赤くて甘いやつは特にね。けどケーキの上に乗ってるイチゴだけはダメだわ。酸っぱくて良さがわからないんだよなぁ」 「えー! その酸っぱさがまたいいんじゃん! それはイチゴ好きとは言えませんよー」  質問を通して、少しだが緊張感や警戒心がなくなってきた。そして少しだが口調もラフになってきたのが聞いてとれる。 「それ友達にもよく言われるんだよねぇ。お前は似非(エセ)イチゴ好きだって! あははっ」  和やかな雰囲気になり、次の質問をした。
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