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少し早く着きすぎたか、と思った。入学式の会場はまだ半分以上の席が空いていた。
「ここ座っていい?」
返事をする間もなく隣の席に座ったのは、駅ですれ違ったあの金髪の少年だった。
「君、名前は?」
「ヒカル、西条光。君の名前は?」
爽やかで明るい精一杯の返事をした。大学生っぽい生活の第一歩だ。
「おれ、夜雲蓮。レンって呼んでよ。」
眩しいなと思った。まるで今までの人生で一瞬の後悔もないような透き通った目だった。
「レン。わかった。よろしくね!」
練習の通り、広角を2mmだけあげて出来る限り自然な笑顔をしてみたが、なんだか疲れそうなのですぐに元の顔にもどした。
「それにしてもさ、東京の朝ってすごいんだね。満員電車!予想してた以上にぎゅうぎゅう詰めでさ。息苦しくなっちゃったよ。学校の勉強しながら通勤してる小学生もいるしさ...。」
とりあえず何か話そうと思いとっさに話を切り出したが、レンはそれを全く気にもしない様子で口を開いた。
「ヒカルはさ、こいつらのことどう思う?」
「こいつらって。」
「この周りの学生さ。」
その時、レンの目は一瞬だけ鋭く、そして冷たいように感じた。
気づけば周りは入学式を楽しみに顔を明るくする学生で埋め尽くされていた。
「どうって...大学生っぽいなーって...」
当然の質問にどう答えるのが良いか分からなかったので、とりあえず思ったままのことを口に出した。
レンは返事をすることなかったが、ただほんの少しだけ笑っているようだった。
入学式は、学長の挨拶から始まった。
その話をきれいな眼差しで真剣に聞く者、意に介さない様子で携帯をいじる者、友達と話す者。ふと隣に目をやると、レンは静かに眠っていた。さらさらした金髪が、きれいな顔をより美しく引き立てていた。
入学式が終わり肩を伸ばしていると、
「じゃあおれ予定あるから。」
と言ってレンは早々に去っていった。
どうも調子が合わない変なやつだった。
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