憧れの存在は身近に

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何も浮かばなくなった。ここ数日、書く理由が分からなくなっていた。楽譜は何も書かれていない真っ白な状態が続いていた。  中学三年から自分で作詞と作曲をするようになって、暇な時や授業中に書いていた。高校に進学して、二年になってからも書き続けていた。最近は何も思いつかなくて、今までの楽しいという感覚も思い出せなくなっていた。作っても誰かが歌うわけでもないから、ただの自己満足、暇つぶしだったのかもしれない。  だから今日、今まで書いた楽譜を学校のゴミ捨て場に捨てることにした。誰かにあげたところで喜んでもらえるのかどうかわからないし、持ってても邪魔になるだけだから、捨てるっていう選択しかなかった。 ここのゴミ捨て場には、めったに学生が来ないから捨てても気にならない。朝とかゴミを回収に来る業者さんしか来ないでしょ、こんなところ。 もういいんだ。暇になったら、また違うことをすればいいんだから。 「……じゃあね」  太陽が熱く照りつける朝。私は使われなくなった小さな焼却炉の前に、紐で縛った楽譜の束を置いて教室に向かった。
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