憧れの存在は身近に

　講堂に着くと開始十五分前なのに、入るのにもビビってしまうくらい人がたくさんいた。当然、最前列には行けなくて、一番後ろで演奏を聞くことにした。聞く人の大半が女子だった。男子なんか十人くらいで、たぶん部員の友達なんだろう。

　会場を見渡していると、突然講堂の明かりが消えると同時に黄色い叫びが講堂に響く。ステージの明かりがついて、軽音部員の男子四人が出てきてそれぞれの位置に立つ。中央にマイクを持って立つ人が聖王先輩かぁ。

　ミルクチョコレートのような髪色で短髪、着崩した学校指定の夏の半袖ワイシャツ、でもスラックスだけはちゃんと着ている。派手なアクセサリーなんか付けていなかった。漫画に出てきそうな人だなぁ。

「少し早いけど、新生軽音部の不定期ライブ、始まるよ～！」
「「きゃあああーーー！」」

　これはもうファンクラブが存在していそうな人気ぶり。

「メンバー紹介！　ギターは二年の輝人(らいと)！　ベースは俺の弟、二年の鏡哉(きょうや)！」
「「きゃあああーーー！」」

　二年の輝人くん、パステルイエローみたいな髪色で短髪で、前髪を赤いアメピンでとめてある。夏の制服は上下ともに着崩している。うん、チャラそう。モテるために入部した感じ。

　聖王先輩の弟さんの鏡哉くん、黒髪の何も遊ばせていないショートヘア、細い黒ぶち眼鏡、学校指定のベストを着てネクタイまでしっかりしていて、どこも着崩していない。優等生な見た目で軽音部ってことは、お兄さんの影響かな？　強引に勧められたとか？

「ドラムは一年の南桜(なお)！」
「「可愛いーーー！」」

　か、可愛い？　まぁ、ほんとに可愛いけど。キャラメルみたいな髪色でショートヘア、前髪はピンクのシュシュ？　で結んでいて、半袖のワイシャツは第一ボタンだけ開けていて、ゆるくネクタイをつけていて、そこから下はドラムで見えない。

「そしてボーカルは、三年の聖王です☆」
「「きゃあああーーー！」」

　アイドルみたいなピースとウィンク……！　どこで覚えたんだ！？

「今日は新曲祭りだよ～！　盛り上がれるかー？」
「「きゃあああーーー！」」

　新曲かぁ……。今まで活動がなかったのは、その練習をしてたから？　どんな曲なんだろう？　聖王先輩の歌声ってどんな声なんだろう？　曲の始まりを知らせるドラムスティックの音が数回鳴った。