憧れの存在は身近に

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 ギター、ドラム、ベースの音が一気に鳴り出す。激しい足踏みようなリズムのドラムの音と、荒々しいギターの音、ベースが影で自分の音を目立たせている。先輩がマイクを持ち上げ、口を開く。 『広い 広い この世界に 僕の声は いつ届くのだろう 叫んでも 誰にも――』  あれ……? この歌詞、この声、どこかで聞いたことあるような?  それにこのリズム、 「……私が作った曲じゃん」  なんで? なんで軽音部が、私の作った曲を演奏しているの? 歌詞は捨てたはずなのに、誰にもあげていないのに。困惑している間に一曲終わっていて、二曲目が始まる。耳を向けることなんかできなくて、ただ呆然と演奏している軽音部を見ているしかなかった。  二曲目も終わると、聖王先輩が終わりの挨拶を言った。 「みんな~! 今日はありがとう! 夏休み前にもう一度ライブする予定だから、楽しみにしていて~」 「「きゃあああーーー!」」  言わなきゃ。なんで私の作った曲を軽音部が演奏したのか。どこでそれを拾ったのか。 みんなが楽しそうに帰っていく中、私はステージに向かってずかずかと歩いた。 「あ、あのっ!」  少しドキドキしながら、片づけている軽音部に声をかけた。 「あれ? ライブが終わったらすぐに帰ってねって、ファンにお願いしているんだけど」  聖王先輩が柔らかく微笑みながら言う。それも気にせず私は、 「私が書いた曲、なんで軽音部のみなさんが演奏していたんですか?」  怒りをこめて、震えた声で伝える。聖王先輩は顔色変えずに答えた。 「君がホワイトちゃん? 捨ててあった楽譜を拾って、俺たちで演奏しただけなんだけど」  私のハンドルネーム! 名前が残っていた楽譜があったんだ。よく見ておけばよかった、恥ずかしい……。 「ホ、ホワイト? 私の名前は白葉(しろは)です。私の許可なく、勝手に演奏しないでください」 「捨てたってことは、もういらないんでしょ? だからもらって、俺たちのものにしてもいいんでしょ?」  何も言えない。そうだ、もういらないんだから、私のものじゃないから、彼らのものにしていいんだ。 「……し、失礼します」  私は駆け足で講堂を去った。確かにあの曲は、私が書いた。それからあの日全部捨てた。私はもうあの曲の所有者じゃない。けど、なんか、もやもやする。何か自分の大事なものを奪われた感じで……。
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