回顧 高一の夏 初めての友達。そして変わり行く僕らの気持ち

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「自立出来る歳になったらあんな家、とっとと出るつもりだった」 海斗を手放さないのは、ただ実母の親に対する面子だけ。 だからそれを利用してやったと、海斗は笑った。 会社なんか弟に継がせればいい。 出て行くのを止めるなら、何も知らない祖父に亮平の事も後妻や兄妹の事も全部ぶちまけると脅したと。 「大学までの学費、その後専門や院に進むならその費用も。それと生活費を振り込む事、祖父さんに余計な事一切云わない条件で、念書も書かせて縁切って来た」 「ま、その代わりに一発だけ殴られてやったけど」なんて海斗はくくっと笑った。 「大学行くかなんて分かんねーし、そん位バイトしたっていいんだけどな。取れるもんは取らなきゃあいつが得するだけだって、亮平が云ってたしな」 埋めていた顔を上げて、海斗がへらりと笑う。 「ってワケで俺、家無くなっちまった」 僕は呆れたように笑って、海斗の腕をすり抜けて立ち上がった。 箪笥の一番上、印鑑や小物などを入れてある引き出しを引いて、祖母ちゃんの使ってた鍵を取り出した。 ───いいよな。祖母ちゃん。 「知っての通り、ウチかなり狭いけど」 「その分南との距離が近い」 馬鹿な台詞に苦笑して、海斗の手に鍵を渡した。 一瞬目を見開いた後、強く手を引かれてそのまま唇を重ねられた。 濡れた感触に、熱い吐息にぞくりと体を甘い痺れが駆け上る。 戯れのキスならもう大分慣れた。 だけどこんな、強く抱き締められて切羽詰まったように触れられるのは初めてで。 「………ん…っ」
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