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「けぇー、ゴハン出来たよーー。」 「うん、ありがとー。」 夕食の用意をしてくれた声に返事をして、読みかけの雑誌を閉じる。 野菜炒めと、白飯。とってもシンプルな、おとこの料理。 「いっぱい食べなー。」 優しく声を掛けてくれる顔には仕事疲れが浮かんでいて、それでも満足そうだ。 「いただきまーす。」 作ってもらったごはんを食べながら、たわいもない今日あったことをおたがい話す。 食事が終わると、テレビを見ながら彼は寝てしまった。 「お風呂入ろっと。」 お気に入りの入浴剤を入れて、1人でお風呂に入る。 「ふぅー…。。」 極楽。彼、たっくんとの毎日はなかなかしあわせだ。 高校を卒業した後、あたしは上京して美容系の会社に就職した。 今どき大学に進学するのは当たり前だし、実際学力が足りなかった訳でもない。 ただ、ちょっとばかり複雑な家庭で育ったあたしが、進学させてもらえる状況にないことは、聞くまでもなく明らかだったから、高校2年の時にはすでに会社に目星をつけて、サッサと就職を決めたのだ。 業界ではそこそこの大手だったけど、実態はなかなかのブラックで、子供すぎるあたしは1年そこそこで辞めて地元に戻ることにした。が、やはり家に居場所など無く、やりたいこともなく、途方に暮れていた時に、1人暮らしを始めたばかりのこのアパートに招き入れてくれたのがたっくんだった。
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