半分くらいがちょうどいい

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ーー午後7時 「お先に失礼します」 「あ、水野さんお疲れ様ー」 仕事を終えて帰ろうと会社を出る。 寒さはやわらいで日も伸び、春っぽくなってきたものの、日が暮れればまだまだ肌寒い。 「あ、ちょっと、水野さん」 振り向くと後ろから仲村さんがやってきた。 「俺も帰る」 「えっ?」 「どうせ帰る方向一緒じゃない」 「だからって何故一緒に帰ることになるんですか......」 「それに、まぁ......ちょっと考えたんだけど、水野さんが俺のことが気になってしょうがないって言ってたからちょうどいいかなと」 「も、もうその話はいいです! 忘れてください。しかも『気になってしょうがない』んじゃなくて、仲村さんのことばかり考えてしまうって言っただけで......あ......!」 仲村は一瞬ぽかんとした顔をしてから吹き出した。 「ぶっ、ははは、そうだったね。うん。そうだった」 穴があったら入りたいとはまさにこういう時に使うんだろう。 墓穴を掘ったのは自分だし、もう今さらしょうがない。 考えるのは一度やめにして、もしかしたら今が"正反対"になる時なのかもしれない、と竹内さんが言っていた言葉を思い出す。 あれはこういう時に使うんだろうか。 『ええい! 儘よ!』と自分に強く言い聞かせた。 「......わかりました。じゃあ......夕飯に付き合ってください。これから」 「え?」 「......あ、だめでしたか?」 それまでまだクツクツと笑っていた仲村は目を丸くする。 「......いや、あの、やっぱり水野さんて面白いよね」 『ーーまずい』帰るだけでよかったのに、引かれただろうか。 だが一方で、別に断られてもいいかという投げやりな自分もいて、体は一つなのに自分が2人いるようだ。 黙ったままでいる私を見て、少し慌てた様子で口を開いた。 「あ、いや、違う。水野さん何か食べたいものある?」 「え?あ、......肉......。肉がいいです。山城亭の焼肉定食......」 「あはは、俺もあそこの焼肉定食好きだよ。うまいよね。安いしさ」 つい今頭に浮かんだものを答えてしまった。 ちゃっかり店名まで指定して。 仲村さんは、"じゃあ、こっちだね"と言いながら、山城亭のある方へ歩き出してしまった。
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