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結局私は逃げた。この緊張感に耐えられなかったのだ。
とりあえず近くの薬局に入ったが、こないだ買ったばかりなのにシャンプーの詰替をまた買ってしまった。
マンションのエントランスに入ろうとしたところで、自動ドアに映った自分の顔を見て泣いてることに気付く。
何への涙なのか。振られたわけでも、悲しいわけでもないのに。ただ自分が格好悪くて嫌なだけ。
しかし、心の中でいくらつっこんでも涙は止まらない。
誰にも会わないように祈りながら、早足で階段を駆け上がる。
エレベーターはあるが、部屋は3階なので、普段から極力階段を使うようにしているのだ。
泣いている自分を、情けなさを通り越して、むしろ滑稽に思う。
「......ホント、笑える......」
「何が?」
「......?! うわっ」
思わず叫んでしまった。そこにいた人物を見て固まる。
「『うわっ』てもうちょっと驚き方あるじゃなーーって」
階段を登っていると、仲村さんが踊り場に立っていた。私が泣いていることに気づいて、彼が驚いた顔をする。
「......なんで......?」
確か同じ階ではなかったはずだ。その彼がなぜここにいるのか。
「......あ、す、すみません!」
「え、ちょっ...!」
一刻もはやく立ち去りたくて、彼の呼び止める声も無視して、そのまま部屋まで全力疾走する。カンカンとヒールの音が響く。近所迷惑だと思うが、今は構っていられない。
部屋に入るなりその場にうずくまる。
冷静さが少し戻ってきて、先ほどまでのことを思い出し落胆する。
だいぶ面倒なことになってしまった。
でも今日が金曜でよかったと思う。明日は会社が休みだから彼に会うことはない。
しかし、来週からどうしたらよいのか。
転職するか、引越しもしなければ。
そもそも同じマンションに住んでるってどうなんだろうか。ドラマや小説でもあるまいし、と考えたところで、頭を落ち付けようと靴を脱いで部屋にあがる。
すぐシャワーを浴び、ベッドに横になる頃にはだいぶ落ち着いてきた。
結果、今までと同じように普通にするのが懸命だと判断する。
よっぽど疲れたのか、それから数分もしないうちに眠ってしまった。
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