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「ご苦労様、対象の誘導は成功したわ。
その先30メートル先を右に曲がって」
耳に届いたのは、
鈴のなるような美しく、どこか艶のある相棒の声。
その音色は俺の心を癒すと共に、
強制ランニングの終了を告げてくれた。
ようやく詰みの時間だ。
「その先は袋小路で、さらに周囲の建物も高いから、きっと逃げられ――」
「さっすが俺の相棒、ありがとう!
そして愛してるぜ!」
普段なら絶対に言えないような内容だが、
最早、変なテンションになって叫ばずにはいられない。
所謂、ランナーズ・ハイという状態だった。
「……きゃんきゃん騒がないで。
近所迷惑な上に、とても耳障りよ、犬」
少しの間をおいて、相棒からの罵倒が耳に届く。
「いえ、犬ならもっと上手く対象を追い詰めているわね
つまり犬以下の存在な訳だけれど、何か弁明はあるかしら?」
いつも心を幾重にもへし折ってくれる罵倒だが、
今はそれすら心地よかった。
「全部終わらせた後に弁明してやるよ!
さぁ、鬼ごっこはもう終わりだ!」
相棒から気持ちのいい声援をもらったのなら、
あとはラストスパートをかけるだけだ。
相棒にかっこいい所をみせてやらねばと、
俺は全力で地面を蹴り上げた。
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