壱 百日紅の薫る朝

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「あのっ、光成様? それでですね! 俺、光成様にお願いがあるんですが。よ、よろしいでしょうかっ」 「あ、はい。何でしょうか」 何だろう? すごく気合いが入っている。というか、思いつめたような真剣な面もちだ 「えーと、俺たち、またふたりで組んで仕事するんですよね? それなら、俺のことは家名の『賀茂』ではなく、名で呼んでいただきたいんです」 ん? 名で、とは? 「俺、もっと光成様と距離を縮めたくてですねっ。はっきり言えば、もっと親密になりたいんです! だからですね、是非とも名前で呼び合いたくっ!」 あぁ、わかった。そういうことか。 「わかりました――――真守(まもり)殿。これで良いですか?」 「……っ。は、はい! 嬉しいです。ありがとうございます! 俺、また頑張ります。光成様のために頑張りますからっ!」 ふふっ。名で呼んだだけなのに、こんなに満面の笑みを見せて……本当に可愛らしいことだ。 賀茂真守(かもの まもり)殿。 陰陽博士を務めておられる賀茂護生(かもの もりお)様のご子息で、以前、(とうの)中将様から拝命した(あやかし)絡みの事件をともに解決した相手。 そして、今回も同じ命が中将様より下されている。ともに事に当たる仲間であるのに、他人行儀ではいけない。 『私のために』という言い間違いは、『主上(おかみ)のため』と後で訂正を促すことにして、まずは親睦を深め合うこととしよう。
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