壱 百日紅の薫る朝

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しかし、ひとくちに親睦を深めると言っても、具体的にどうすれば良いのか、皆目見当もつかないのが私の残念なところだな。 主上(おかみ)近侍(きんじ)する六位蔵人(ろくいのくろうど)という晴れがましい職に就くことができたというのに、無愛想な性格と辛辣な物言いが災いして、敵ばかり作っている自分――――藤原光成(ふじわらのみつなり)という人物のことは、良く理解している。 こんな私に、気さくに話しかけてくるのは、脳天気でお気楽者の建殿くらいだ。いや、待てよ……。 「光成様っ。これで俺たち、以前よりもさらに息の合った相棒として仕事ができますねっ。本当に嬉しいです!」 「……っ」 そうか……あぁ、そうだった。 ここに、居た。真守殿が、居たではないか。 年齢にそぐわないひげ面の上、態度も不遜で、口を開けば毒舌しか出なかった私。 それこそ宮中では嫌われ者の私だったが、真守殿はそんな私のきつい物言いも気にせず、ともに仕事を全うしてくれた。 それどころか、次も私と組んで仕事がしたいと言ってくれたのだ。 私の仕事ぶりと心映えにいたく感銘を受けたと。とても尊敬していると。 あの時、顔には出さなかったが、とても嬉しかったではないか。なぜ、私はそれを忘れていたのだろう。 「真守殿……えぇ、そうですね。私たちは、今も昔も、とても息の合った『相棒』ですよ」 そうだ。この真守殿。建殿以外では、唯一、私が宮中で親しく話す相手だ。 「……っ、光成様っ。それは、これから先もずっと、という意味ですか?」 「ふふっ。おっしゃる通りですよ。これからもよろしくお願いしますね」 感情を表に出すことが途轍もなく苦手な自分が、今、心からの笑みを浮かべている。それを、しっかりと自覚していた。
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