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「……ふあぁぁ……」
ん? 今のは、もしや……?
清涼殿に近い階前。そこを通り過ぎる自分の耳に、聞き覚えのある声が届いてきた。
「あー、参ったなぁ……ふあぁ……」
やはり、建殿の欠伸であったか。
立ち止まり、上を覗いてみれば、見知った相手の大きく欠伸をする姿が見てとれた。呑気で迂闊な、蔵人所の同僚、源建殿。
だが、なぜこのような階に文机を移動させて仕事をしているのだ?
「この青梅の糟漬け、本当に旨いなぁ。しかし、これを口にしているせいだろうか? どうにも眠い……ああぁ、駄目だぁ……ふあぁぁ……」
それに、眠いのだろうか?
先程から、何やら呟きながら、しきりに頭が揺れている。
あっ、そんなに勢いよく硯に筆をつけては紙に飛んでしまうではないかっ。
あっ、あっ。墨が! 筆から墨の塊が、紙にっ……落ちるぅっ!
「建殿っ!」
「うわあぁっ!」
――がたん、がたんっ!
あ、遅かった。墨が滴り落ちる前にと、声をかけたのに。
「うわわ、硯が! 墨がぁ!」
いや、むしろ被害が拡大してしまったのか?
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