弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

2/22
前へ
/278ページ
次へ
「――――という話なのです。光成様、いかが思われますか?」 この時間はあまり人が通らない弓場(ゆば)寄りの東庇(ひがしびさし)に移動し、真守殿からの報告を受けることにした。 「そうですねぇ。今のお話によれば、(あやかし)騒ぎが集中しているのは、先日私たちが待ち合わせをした仁寿殿(じじゅうでん)ということになりますね。けれど、私は清涼殿(せいりょうでん)でも一度目撃されているという点が、気になります」 「さすが、光成様です。私の父も同じことを申しておりました」 「いえ、私などは……けれど、陰陽博士(おんみょうはかせ)である賀茂護生(かもの もりお)様と同じ見解ということは、この推察は間違ってはいないということですか。口にしたものの、当たっていてほしくない憶測であったのですが……」 例え一度きりであったとしても、主上(おかみ)の寝所でもある清涼殿に(あやかし)が現れたというのは、由々しきことだ。これは、(とうの)中将様にもご報告にあがらねば……。 「光成様のおっしゃる通りです。それでですね、その件について父から光成様へのご伝言がありまして……あ、あの、もう少し近くに寄ってもよろしいですか? これは内密の話でして、そ、その、疚しい気持ちでは決してなくっ!」 ん? 真守殿は何を焦っているのだろう? 内密の話なら、顔を近づけるのは当然なのに。 「はい、構いませんよ。これくらいの距離でよろしいですか?」 「はっ、はいぃ! じ、じっ、充分ですっ。でで、では、お耳元に失礼いたしますっ」 内密の話なのに結構な声の張り上げぶりが気になったけれど、その後に声をひそめて告げられた話の内容に集中することにした。 「――わかりました。では今宵、先日と同じあの百日紅の前で落ち合いましょう」 主上のおわす内裏(だいり)に出没しているという妖。大事になる前に、何としても秘密裏に解決しなければ……!
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加