弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

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「なぁ、光成。この訴状なのだが訴えが二度目と書いてあってだな」 「あぁ、これは大江様がご存知の件ですよ」 「光成、こちらの覚え書きの続きはどこだろう?」 「それは、六条様が引き継いでおられます」 「光成、今宵の宴に(きょう)する主上の膳なのだが――」 なんだろう? 今日の建殿はどうしたのだろうか。 いつもなら私になど声をかけずにこなせるはずの仕事を、いちいち尋ねてきているような……。 何かにつけて、私に話しかけてきているような気がするのだが……気のせいだろうか。 殿舎内の塗籠(ぬりごめ)に収蔵している文書(もんじょ)の整理をしながら、いちいち傍にやって来ては質問をし、また去っていくという建殿の様子に、首をひねってしまう。 いや、いつもこんなもの、だっただろうか。何せ、かなりなうっかり者の建殿のことだか……。 「光成? おい、ちゃんと聞いてくれているのか?」 「……っ、はい! 聞いておりますっ」 いやいや、違う! 全然違う! 『いつも』とは違うー! 「あ、あの建殿? ちょっとお顔が……」 近い、近い! ものを尋ねるだけなのに、なぜこんなにも顔を近づけてくるのだ? どくどくと鼓動が跳ねる左胸に片手を当て、二、三歩、一気に後ずさった。 その私を見て、なぜか悲しそうな表情をした建殿が何かを呟いたが、聞き取れない。 「光成、お前……あの少年には自分から顔を近づけて寄り添っていたくせに。私が相手だと、嫌がって逃げるんだな」 いーや、建殿の呟きなど、どうでもいい。 それよりも、赤くなってるはずの顔を隠すべく、早くこの場から逃げなくては!
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