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序 朔の夜
月影が消えた、漆黒の夜。
――ひゅうぅ
昏き、その闇の中。
生ぬるい夏の風が、そろりと頬を撫でていく。
「……おかしい」
闇を纏うように佇んでいる痩身が、ぽつりと、ひとりごちた。
「何故、星ひとつ見えぬのだ?」
今宵は、月が姿を見せぬ、真暗き朔の夜。
だが、例え月が見えぬ夜でも、多少なりとも星の瞬きはあるものなのだ。
されど、いま天空には、ただひとつの星すら、見つけられぬ。
「空に明滅がない。これは一体、どういうことだ?」
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