弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

4/22
前へ
/278ページ
次へ
何か、用事を見つけなければ……この場から、今すぐに立ち去れる上手い言い訳を……。 「あっ、そうでした! 私、中将様にご報告することがありました。では建殿、失礼いた……」 「光成、すまん! 実は、またもや酷い失敗をしでかしてしまってな。他の蔵人の方々には内緒でやり直しをしたいのだ。だからお前、今宵、私につき合ってはくれまいか? なっ? 頼む! この通りだ!」 「……え? 失敗?」 あ、しまった。早々にこの場から立ち去りたかったのに、建殿が口にした『失敗』という言葉に、つい反応して足を止めてしまった。 せっかく、塗籠(ぬりごめ)から出ようとしていたのに。 けれど、建殿にこのように頭を下げられてしまっては……。 「……ふぅ……此度(こたび)は、何をしでかしたのですか?」 大きく、ひとつ息をつき、先程の密着で狼狽えていた胸中を宥めつつ、呆れた表情を見せられるように(つと)めて、問いかけた。 「おぉ、手伝ってくれるのか? 有り難い!」 ふふっ。なんて嬉しそうに笑うんですか? あなたは。 問いかけの後に「全く、あなたときたら」と小馬鹿にした物言いと、冷たい視線をつけ足した私なのに。 全く、仕方のない御方だ。 「仕方ありませんね。建殿のお馬鹿な失敗の尻拭いをするのは、優秀な後輩の役目ですから」 「何をー! 私が何のためにこんな真似を……あ、いや……た、助かった。よろしく頼む。 その……光成? 最後まで、ちゃんとつき合ってくれよ?」 ん? 『最後まで』とは、どういう意味だろう。 まぁ良いか。どうせ真守殿との約束の刻限まで仕事をしていようと思っていたのだから、その時間を建殿のために使えるなら、それに越したことはない。 建殿。あなたを叱咤しながら、迅速、且つ完璧に終わらせれば済むことですからね。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加