弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

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しかし、私に文など、いったい誰からだろう? 疑問でいっぱいだが、まずは読んでみなくては。 白と(べに)。二枚重ねの薄様(うすよう)の紙を、結びつけられた紫苑の造り枝から丁寧にほどいていく。 「……ん?」 女童(めのわらわ)に怖がられていないとわかったことで浮き立った気分のまま、さっと開いた、その文には――。 『梅が()を 人にたづるる』 ただ、これだけが、薄墨の細い文字でしたためられていた。 「これは……」 何だろうか。 いや、何と問うまでもない。 文付枝(ふみつきえだ)に紅白の薄様(うすよう)で届けられたのだから、一応は……。 「おい、光成! そそっ、それは、懸想文(けそうぶみ)ではないのかっ? 誰からだ? どこの誰からの文なんだぁっ?」 「え? あっ! 何をなさいます!」 「だだっ、誰がお前にっ…………へ? 何これ……」 「『何これ』じゃありません! 人への文をいきなり奪って勝手に読むなど、何をなさるんです! 早く、それをお返しくださいっ」 突然手元から奪われた文を、今度は逆に建殿から奪い返した。 全く、もう! 私への文だというのに無理やりに奪って読むとは、いったいどういうつもりだ? それに、先ほどから「誰からの文だ」と、しきりに問うておられるが、それもどういうことだろう。 「すす、すまん。しかしお前、それは……けけ、懸想文(けそうぶみ)! 懸想文ではないのかっ?」 建殿は、何をこのように必死になっておられるのだろう。
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