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「……えぇ、そのようですね」
建殿の興奮の理由は、全然わからない。
しかし、建殿のことはわからないけれど、別のことなら推察できる。
手元の文に、いま一度、目を落とした。
『梅が香を 人にたづるる』
薄様にしたためられた、懸想文としては不完全な歌をじっと見つめ、考える。
上の句と下の句を別人が詠み合い、恋歌としてやり取りをすることなら、確かにある。
が、これは上の句にすらなっていない。歌の才と良識を兼ね備えた内裏の女房が、このような歌を文にされるわけがない。
しかも、その相手は、誰からも煙たがられ、嫌われている私だ。とすれば――。
「桃花の君?」
建殿から奪い返した文を手にしたまま、振り向く。
「これをあなたに言づけたのは、どなたかな? 御名前を言えますか?」
「はい! それは、おうみのおかたさまですっ」
「『近江の御方様』ですか。ありがとう」
やはり、そうか。
この宮中で、私宛てにこのように非常識な歌を贈ってくるなど、篤子以外には考えられなかった。
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