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「え? 光成? いいのか? これで? 本当に? これでは、返歌だとは思ってもらえないぞ。本当にいいのか?」
くるくるとよく動く表情豊かな明るい色の瞳が丸く見開かれ、何度も疑問を投げかけてくる。
返歌がこれで良いのか、と。
私と篤子との個人的なやり取りに、どうして建殿がここまで介入し、念押しまでしてくるのか。
何となく、わかったような気がする。
仮にも、宮中に於いて上の女房となっている篤子宛ての文に礼儀を欠いた内容で送ろうとしている私のことを、蔵人の先輩として心配してくれているに違いない。
「構いません。この相手には、これで通じますので」
「いやいや、文の相手は近江の君だろう? あの近江の君への歌が『これ』では、余りにも酷くはないのか? その……せっかく髭面をやめて、少しは良くなってきたはずのお前の評判が、また下がってしまうぞ?」
ほら、思った通りだ。
目の前のこの人は、上に馬鹿がつくほどのお人好しで。私とは真逆の、とても性格の良い、優しくて心の温かな人なのだ。
「いえ、近江の君だからこそ、これで良いのです」
だから、建殿の横やりは無視すると決めたはずの私も気を変えて、きちんと説明することにした。
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