弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

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「……」 苛々する。あぁ、苛々する。 その原因は、“これ”だ。 「……なぜ、私の後をついて来るのです?」 足を止め、振り向かずにぼそりと尋ねた。 もう、ついてこないでほしいと願い、手酷い言葉を投げつけて拒絶したはずの相手が、すぐ後ろにいる。 ずっと早足で歩いているのにも関わらず、数歩と()を空けずに、私にぴったりとついてきているのだ。 「光成? お前が酷く怒っているのは分かっているのだが……その、どうか機嫌を直してはもらえぬだろうか? 私が近江の君に文を送ったことが悪かったのなら、この通り謝るから。な?」 すぐ真後ろ。その位置から、気落ちした情けない声色が届いてくる。 全く、この人は。 撫子といい、篤子といい。どうして、私に(ゆかり)のある娘にばかり文を送るのだろう。 「はあぁ……」 前を向いたまま、その人の言葉を最後まで聞き、長く重い溜め息をついた。 わかっている。なぜ、私がこんなにも苛々しているのか。どうして、このように刺々しい心持ちになっているのか。 腹立たしい。寂しい。そして――。 妬ましい。 建殿が好意を寄せる女人(にょにん)全てが、妬ましくて堪らない。 さらに、才のある美女たちに懸想文を送っていることを、私には『言わないつもりだった』のだと言っていた。私など、その話をするほどの相手ですらないのだと、本心を聞かされてしまった。 私は、建殿のこの言葉に傷ついた。酷く、傷ついている。 だから、しばらくはこの人の顔など、見たくはないのだ。 ずっと見ないふりをしている自分の狭量さと、叶わぬ想いの苦しさをまた自覚してしまうから。 想えば想うほどに、この人へのそれは何の光明も見いだせないものなのだと、はっきりと思い知らされてしまうから。 不毛な恋心のやりきれなさに、押しつぶされそうになってしまうから――。
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