弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

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「み、光成? 今の、大きな溜め息は……も、もしや! やはり、とんでもなく私に怒っているということだろうかっ?」 「……は?」 慌てたような早口とともに、背後から肩が掴まれた。 それで、気づいた。 自分が、いつの間にか足を止めていたこと。それから、深く俯いていたこと。 指が食い込むほどに、強く掴まれた肩の痛み。それが、焦りを含んだ建殿の言葉の内容に原因があるのでは、ということに。 「……痛い、です。その手を離してください」 だから、一歩、身を引き、目線を合わせてから声をかけた。 ――もしくは、手を離さなくても良いから、できれば力を緩めてください。私にその手を触れさせたままで構いませんから、力だけを緩めてください。 口には出せない『もうひとつの願い』を、視線に込めて。 私は、怒ってなどいませんよ。 ただ、傷ついただけです。 胸を抉ってくる痛みが、つらくて。 未来の見えない想いの行方を思うと。ただ哀しく、苦しいだけなのです。 「光、成?」 見つめる瞳に想いの全てを込めた、ほんの刹那ののち、私の肩を掴む力が弱まった。 あぁ、強欲な願いの一片(いっぺん)だけでも叶ったということだろうか。 私が望んだ通り、建殿の手がそこから離れることはなかった。 弱りきった表情で、ただ、見つめられる。 「その……頼む。お前が怒っている原因を私に教えてくれ。お前を怒らせたまま、どこかに行かせるわけにはいかないのだ。どうか、私にもわかるように教えてくれまいか」 そうして、もう片方の肩にも手が乗せられ――。 「……ぁ、っ……」 そのまま、その胸へと引き寄せられた。
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