弐 濡れる朝顔の、儚さと… 【二】

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――かさっ ふたりの(ほう)が、擦れ合う。 建殿と私。六位の官位を指し示す、深縹(こきはなだ)色の衣冠の袍。 その絹の綾が、互いにぴたりと密着している。 これは、どうしたことだろう。建殿と私に、いったい何が起こっているのだろう。 私には、理解できない。 「光成」 「はっ、はいっ!」 びくんっと、背すじが伸びた。 建殿の声が、ごくごく間近から聞こえてきたから。 耳元だ。私の耳に、とっ、吐息が! 私よりも一寸(いっすん)ほど背丈が高い建殿の吐息が、私の耳にかかっている。 つまり、それほどの至近距離で私たちの顔が近づいているということ。 それはわかった。しかし、なぜっ? 「私は、お前も知っての通り、かなりの迂闊者だ。だから、どうか……私にわかるように、筋道立てて教えてくれ」 無理です。 鼓動が恐ろしいほどの速さで打ち鳴らされ、このままでは息もできない。 こんな状態で、わかりやすく筋道立てて話せ? できません。無理です。取りあえず離れたいのです。 つい先程までの私は、あなたに触れていてほしいと願っていましたが、それはなかったことにします。 「た、建殿? あの、まず離れてくださいませんか?」 「駄目だ」 「え? あの……ですが、この体勢でお話するのは、無理があります。ですので、まずはお手を離してくださ……あっ」 「駄目だ、と言ったろう? 逃がさない。私の腕の中で、話して聞かせてくれ」
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