序 朔の夜

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禍々しい、緋色の光。 最初は点のように小さなものであったが、それはあっという間に広がり、周囲を深紅に染めていく。 「やっと来たか。待っていたぞ」 待っていた。これを。 “お前”を。 にやりと、口角が上がる。 不敵に微笑み、むせ返るような匂いを放つ夏草を踏みしめて、一歩、前に出た。 素早く霊符を取り出し、(しゅ)を唱え、そこに滅魔の気を込めていく。 「――――()ぁーっ!」 深紅の塊に向けて、調伏(ちょうぶく)の真言を思いっきり叩きつけた。 ――ぎぃっ、ぎぎぎぎっ、ぎぃぃっ 叫びとも呻き声ともつかぬ耳障りな音が、ぎぃんっと大地を震わせ、闇を切り裂いて響き渡っていく。 直後、辺りが、ぱぁっと明るく光り輝いた。 深紅の光が、ひと際輝く黄金色(こがねいろ)に変化したのだ。 イラスト:奈倉まゆみ様 dcb0ef7c-2c4e-4752-bbe1-1b086ff22e64
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