壱 百日紅の薫る朝

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「あの……逢瀬、ですか? それはまた、大げさなことをおっしゃいますね」 今朝ここでこの少年と落ち合う約束をしていたのは、役目のためだ。 決して『秘密』でもないし、ましてや『逢瀬』などでもない。 「えっ、俺は本気なんですが。本気で光成様のことをお慕いし……」 「ですが、いかにも賀茂殿らしい仰りようですね。ふふっ」 「……っ」 が、賀茂殿はまだ十八歳。 陰陽寮(おんみょうりょう)に属し、将来有望と言われている陰陽生(おんみょうせい)とはいえ、まだまだ子ども。 物の言いようの間違いのひとつやふたつ、見逃してやれば良い。 仕事の相手としては、有能なのだし。 「逢瀬ではありませんが、言い間違いは誰にでもあります。それに、間違え方が可愛らしいので、私は気にしませんよ」 この少年は、まるで弟のようで、本当に可愛らしいのだから。 「み、光成様が、俺を『可愛い』って言った。しかも、ものすごい笑顔でっ。やった。やったぞ! うおぉ……!」 たまに、こんな風に何かに興奮したように真っ赤な顔でぶつぶつと呟くことがあるが、瞳がきらきらと輝いてるのも可愛らしいから、何の問題もない。
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