四月 偶然の再会

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 後で支店長が申し訳なさそうにオレに話し掛けてきた。 「食事に行く流れになったけど、佐伯は大丈夫だったか?」 「いえ、別にオレは問題ないです」 「すまんな、ミナがうれしそうにしていたので、俺も強く止められなかった。まあ、妹ができたみたいな感じで、気楽に接してやってくれんか? 高校卒業してからあの世界に飛び込んで、がむしゃらにやってたせいか、あんまり親しい友達もいないみたいでな」 「でしたら、うちの真由ちゃんとか連れて行ったら仲良くなるかもしれませんね」 「その辺の人選はお前にまかせる、頼んだぞ」 「わかりました」  銀行の支店長なんて部下に横柄な人が多いが、草橋支店長は違う。  叱る時こそ厳しいが、それだってこっちに非がある場合だけだ。  普段は部下のことをよく見ていてくれている。オレもさんざん世話になった。迷惑もだいぶかけたしな。それくらいたやすいことだ。  色々なことがあった一日だった。  まあ、支店長が言うように可愛い妹ができたみたいな感じで気軽に行くほうがいいのかもな。  逆の立場でオレがもし芸能人で、そのせいで友達によそよそしくされたらイヤな気分になるだろう。  向こうも、「minaって呼んでください」って気さくな感じで言ってたし。  それにしてもテレビで見るよりも断然可愛いな。  芸能人って感じでなんかオーラが出ていたし。田中なんかメロメロだったもんな。  オレだってあんなキラキラした目で見つめられたら、どうにかなってしまいそうだ。  いやいや、なんせ支店長の親戚で、芸能人だ。  住む世界が違う。  お近づきになれただけでも奇跡だ。  妹、妹、minaは妹……よし、これで行こう。
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