0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ホント、バカね」
私は一人つぶやきながら、ページをめくる。
最初の挿絵に比べたら、明らかに描き込みの情熱がトーンダウンしたおざなりな自画像が続けてセリフを語っていた。
「オレのひみつ1。父ちゃんにもらったたからもの」
その横には、キラキラ光るロケットペンダントが描かれていた。
私は、嘉人がそれをいつも首からぶら下げていたのを思い出した。
誇らしげに輝くロケットペンダント。中に入っている写真も、何回か見せてもらった。
私はページをめくる。
「オレのひみつ2。ひみつきちのちず」
その横には、相変わらず下手くそな地図が。
そうだ。確か、近所の空き地から続く林の奥。
大きな楢の木の陰に嘉人の秘密基地はあった。
大人では少しキツいくらいの狭い空間。木の枝やツタなどで作られた隠れ家。
よく二人であそこにお菓子を持ち込んで食べていたっけ。
私は、その頃のことを思い出してクスクスと笑う。
「オレのひみつ3。オレのすきなひと」
その横には、女の子の絵。長い髪をポニーテールにした女の子。
下手くそな絵だったけど、それは私だ。
「ずっとなかよくしてくれよな!」
さいごに大きな字でそう書いてあった。
小学校二年生の時に、誕生日プレゼントにもらった私の宝物。
私は手作りの本を大切に閉じる。
そして、開きっぱなしのアルバムに手を伸ばした。
高校の卒業アルバム。
先生を中心に並ぶ生徒一同の中に、学生服を着た嘉人の姿はない。
嘉人は中学三年の春、病気でこの世を去った。
同じ高校に通うはずだった。
幼なじみの悪友。
最初のコメントを投稿しよう!