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 開店時刻の一時間前、いつもは買い物客で賑わうビルの中は人気がなくひっそりとしている。従業員専用の明かりが落とされた薄暗い通路を抜け、向井由幸(むかいよしゆき)は勤務先である書店へ続く扉を開けた。  駅の近くにあるビルの四階、そのワンフロアのほとんどの面積を書店が占めている。この辺りで本屋といえば、由幸が勤めているこの店舗のことを指す。  雑誌売り場、書籍売り場、実用書売り場、児童書売り場、様々なジャンルの売り場を抜け、由幸がたどり着いたのはコミック売り場。最近は電子書籍を利用する人達も増えたが、やはり紙でないと、という読者も多い。  売り上げの大きいジャンルは雑誌。特に週刊の少年漫画誌は発売日に即日完売する事も珍しくない。  由幸の店舗では雑誌の次に売れるジャンルがコミックだ。店の半分近くの棚にコミックがずらりと差されている。  そのコミック売り場の担当が由幸だった。
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