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 開店前はてんてこ舞いするほどに忙しかった店内だが、いざ開店すれば穏やかな時間が流れ出す。開店早々来店する客は少ない。  電車の線路を挟んで南に住宅街、北にオフィス街が存在するこの駅。開店直後の客層はこのビルに買い物に来たついでにやってくる客か、オフィス街を更に進んだところにある大学の学生、近くの予備校の生徒くらいだ。  昼にはサラリーマンやOL達がランチのついでに立ち寄るため、少しだけ混雑する。その時間を過ぎれば店内は再びまったりとした雰囲気になる。  この店舗が人で賑わい始めるのはやはり夕方以降だ。帰宅途中の学生や社会人で閉店時刻まで客足は絶えない。  夕方五時を過ぎ客の数が増えてきた頃、由幸はちらちらと、あるジャンルの売り場を何度も確認していた。  新刊コミックが発売されるその日、コミック売り場に一際異彩を放つ客がやってくる。異彩を放つと言っても、見た目はまあ普通の男子高校生だ。  しかし彼が足繁く通う、そのジャンルの売り場ではどうしても制服姿の男子は目立つ。コミック売り場の奥の、更に一番奥の方に展開されているそのジャンル。この辺りでは、品揃え、売り場面積共にこの店舗に敵う書店はないと出版社の営業達は口を揃えてそう言う。  『BL』、つまりボーイズラブのコーナーで、その男子高校生の制服はあまりにと不似合いだ、と由幸は思った。
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