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 由幸は基本的にBLコーナーに立ち入らない。  そこは腐女子のお姉様方の聖地であり、男性店員がうろつく事は彼女達の憩いのひとときを邪魔しているような気になるからだ。例えば、コンビニの十八禁雑誌を女の子の店員から買いづらい、そういう意識と似ていると思う。  しかしその高校生は、女性ばかりのその聖地へ堂々と顔を上げしっかりした足取りで向かう。周りのお姉さん達の二度見なんか全く眼中にない様子で、コミックを手に取り見つめる姿は凜としていた。  最初は場違いな男子高生の登場に内なる動揺を隠せていない腐女子のお姉様方も、彼の真剣な眼差しに『仲間』であるとすぐに確信するようだ。彼が棚を見ながら歩むとその行く先をそっと譲り、彼女達は空気と化す。  じっくりと棚を見て歩く優雅な足取り、男同士が微笑み合う表紙をじっと見つめる真剣な眼差し、その綺麗な横顔を見て、由幸はこっそりと彼にあだ名をつけていた。『王子』、と。
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