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 ここ最近、この店舗のBLジャンルの売り上げは無視できないほどに育ってきている。腐女子という言葉が市民権を得たことも一因だろう。  売り上げが伸びると共にBLコーナーは少しずつ拡大されてきていた。そして店内の二カ所あるレジの、コミック売り場のレジに女性の店員が入る事になると、BLジャンルは更に売り上げを伸ばし始めた。専門店ではないものの、由幸の勤める書店も協力書店としてBLコミックにペーパーがつくことが増えた。  ペーパーとは販促のために作家が書き下ろしたオマケみたいなものである。ペーパーやクリアファイル、ポストカード、それらは書店ごとに配られているものが違ったりするらしい。コアなファンはそれ目当てに色んな書店で特典つきの同じタイトルの本を買ってまわるというから、オマケだって馬鹿にはできない。  今日発売の新刊にもペーパーがつく。その新刊、きっと王子は買いにやってくるだろうと由幸は確信していた。  先週、王子はこの新刊のシリーズ既刊本五冊を棚からごっそり抜き、大人買いしていたのだ。さっきからペーパー効果か知らないが、その新刊を手にレジへ行く客が増えた。  朝にはドンと積んでいたはずなのに、見るともう三冊しか残っていない。そしてまた会社帰りのOLらしき客が一冊手に取りレジへ向かった。 「あ~……、あと二冊……」  王子くん!何してるんだ、早く来ないとなくなっちゃうよ…!  由幸がやきもきしている間にまた一冊減っていき、もう本当の本当に最後の一冊となってしまった。  専門店では人気のBLコミックはちょっとしたオブジェが作れるくらい入荷することもあるらしいが、由幸の勤める店舗は一般書店だ。やはりBLの新刊売り上げは専門店には及ばない。  そうなると新刊の入荷数も専門店よりは少なくなり、BLというマニアックなジャンルはどれほど人気の作品でも二、三十冊しか入荷しないのだ。  それでも他の一般書店よりは多い方で、町の小さな本屋さんでは一つのタイトルで二、三冊入荷すれば良い方だろう。入荷数はその店の売り上げ実績に確実に比例するのだ。
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