モラトリアム

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 ふと、先生のことを思い出した。大学の授業を受けている最中だった。なぜ今さらになって思い出したのかとんと見当もつかなかった。目の前で延々とインプットしにくい知識を吐き出している教授と先生は似ても似つかない。私自身もちょこちょことメモを取りながら授業を聞いていただけである。  しかし、一度思い出すと無性になつかしさが込み上げてくる。小学校卒業以降会ったことはないが、今も元気にしているだろうか。今はどこの学校へ行ったのだろうか。そんな感情の波を飲み下して、授業を聞かなくては、そう考えはするのだけどどうにも止まらなくなって私は自分の腕をきつく掴む。そうでもしないとこんな場所から逃げ出して小学校か自分の家かまで一目散に走りだしそうだった。懐かしい校舎とか、アルバムの写真とかを眺めてこの感情をどうにかしなくては、それを跡が残るほどきつく爪を突き立て握りしめた手が押し止めている。その様子をじっと眺めていると少しずつ少しずつ気持ちの波はさざ波くらいになってきて、そわそわはするものの私は大きく息を吐き出せた。冷や汗が頬をつたった。
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