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先生は私の小学校六年生の時の担任だった。授業の記憶は殆どない。今思うにあのクラスはほとんど学級崩壊していたのだ。教室に来た教師には罵声が浴びせられ、手紙が飛び交う。五分くらいすると教師が騒がしいやつらを連れて教室を出ていき、自習が始まる。1日の半分はそれだった。
私はいじめられっ子であった。とはいえ、そこまで悲観的な状況でもなければ、そこまで素直な子供でもなかった。先生とよく話すようになったのは私がいじめられっ子だったからだ。
私はまず、他のクラスのいじめられっ子に目をつけた。一人ぼっちの彼女らは、声をかければすぐについてきてくれるからだ。私たちはされたことを出来るだけ事細かにノートに記した。そして、養護教諭に提出した。養護教諭が
「先生にも見せてあげて」
といったら、私たちはようやっと職員室へ向かうのだ。直接先生を頼ればチクったと散々に言われるのを私たちはよく知っていた。けれど、養護教諭のいる保健室はどこか聖域じみた場所で、そこを経由すればいじめっ子たちは文句を言うのをためらった。
幸い、先生たちは協力的だった。休み時間も教室に残り、生徒たちを見ていたし、ことあるごとに私たちに声をかけてくれていた。
そんな日々の中で、ある日先生は私にこう言った。
「中学受験してみる気はない?」
昼休みに職員室に言ったときの事だった。中学受験、と小さな声で私は反復する。存在は聞いたことはあったけれど、それまで自分には縁のないものだった。
「私、ここの前はそういう中学にいたのよ。○○さんなら行けると思うわ」
それは思いがけず受けた言葉だった。クラスメイトに罵倒ばかり浴びていた私へ向けられた期待の言葉。
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