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久しぶりの全力疾走で息が切れたけど、何とか、目的の旧校舎までやってきた。
廊下の張り紙に、『廊下を走るな』と書いてあるのは、時代を感じる。新校舎の張り紙は『歩きスマホ禁止』だからだ。
ここ、東高は、県立である。意外に歴史は古いらしいけど、詳しくは知らない。
部活動。特に運動部に力が入っているせいか、戦力になりそうな生徒への勧誘は熱心なのだ。進学校だけどね。
数年前から共学となり、生徒の数も大幅に増えたので新校舎が増設されたと、校長先生が言っていた。
旧校舎といっても、さほど古さは感じさせず、トイレなども、設備、清掃の行き届いた綺麗なものだった。
手洗い場を通過した時、ふと鏡と向かい合った。ボーイッシュではあるが、きめ細やかな肌に、ショートの髪型。
「そんなに男の子に見えるかなあ。スカートだってはいてるのに」
本人は気づいていないが、客観的に見ると、祐智とは違うタイプの美少女だ。服装などを工夫すれば、美少年で通じる容姿だが、当の本人は、鏡を見て不満顔だった。
あ、さっき飛び越えたとき、スカートってこと忘れてた。
まあ、いいか。と切り替える。
ヴヴッ。とスマホが鳴った。チャットアプリが起動している。
『無事逃げ切れましたか?』
ゆっちからだ。
『なんとか。一人にしてごめんね』
『いいえ、お気になさらずに』
普段は気にならないけれど、文字で見ると、本当に丁寧な言葉使いである。
距離を感じるという子もいるけれど、これがゆっちだと思っているから、気にはならない。
カワイイあざらしのスタンプを送ってきた。ゆっちらしいなあ。
「また明日ね。っと……」
廊下でスマホ操作をやめて、階段を上がって3階へ。その先、つきあたりの部屋。プレートには、文芸部と書かれていた。
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