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「はい、文学部も覗いたんです。でも、執筆活動より、なんの本がよかった、悪かったって話ばっかりで、それはそれでいいんですけど、どこか遊びの延長なんだなって感じがして。
あたしには合わないかなって」
「作家になりたいワケ?」
「はい。作家というか、小説家です」
「小説にこだわりがあるワケね」
「今って便利なんですよ。無料で小説を読めるサイトがあるんです。
自分の気になったジャンルの話を読めるし、作者の数だけ物語があるし、書いてるのはプロじゃない方ばかりですけど、みずみずしさというか、自由というか。
それに、そのサイトでは読むだけではなく、投稿もできるんです。学歴、性別、年齢、資格を問わず、というところもいいんです」
身振り手振りを交えて熱く語ってしまった。あたしは、ちょっと恥ずかしくなった。
小説家を目指していることを、伝えたのが。ではなく、自分の好きなことになると、熱く語ってしまったところだ。
しかも相手は、初対面の、しかも(一応)教師だ。
「なんていうサイト?」
それでも、ついおしゃべりになってしまったのは、だるそうに頬杖をつき、タパコをくわえている先生の、目だけは、真剣にあたしを見てくれていたからだと思う。
「エブリスタです」
知らないですよね。と付け加えると「初めて聞いた」と、言われたけど、今はそういうのもあるのね。と付け加えていた。
てっきり、ふうんで終わると思っていたから、意外だった。
「小説を書くことって、孤独な作業なんです。誰かと共同で形のあるものを創るわけじゃないし、これで完璧、だってこともないし」
「完璧なものなんて存在しないわよ。文章も、人間もね」
タバコを吸い込み、琥珀色の液体を飲みながら、柚葉先生はため息のように、白い息を吐いた。
目の前が白くなってきたので、窓を開けた。
別に大人がタバコを吸うことを、とがめるつもりもないけど、他の先生に見つかったら誤解されるのかな。
服や髪がタバコ臭くなることは、ちょっと気になった。
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