34人が本棚に入れています
本棚に追加
「えーっと、でも……って?」
ああ、と彼女はクスっと笑って言葉を続けた。
「翼があったら、正直、邪魔じゃありません?」
思わず想像してみる。
「確かにそうかも。服、背中に穴あけなきゃね」
「寝返りもうてませんよ」
「本当だ。うつ伏せになって寝なきゃ」
「でも空は飛べますよ?」
「とはいえよ、空には飛行機とか飛んでるし危ないじゃない。カラスにも襲われるよきっと」
「カラス、そうですね。ふふっ、いいことありませんね」
「でも遅刻はしないかも」
「飛べますからね」
あたしたちは、笑った。
多分あたしがほっとしたのは、この子のほほ笑みがあまりに自然で、安心したせいかもしれない。
「キミ、相当変わってるね」
「私がですか?」
「翼があったら邪魔なんて、ロマンがないじゃん」
「そちらこそ、翼があったら飛べるかなんて、なかなか言えません」
「初対面の人には特にね」
「クラスメイトです。初対面ではありません」
意外に細かい女である。
「キミが空に何を想うか、なんて訊くからだよ」
「そうでしたっけ?」
祐智さんが優しくほほ笑む。
クラスではあまり目立たず、活発ではないが、不思議と周りには人が集まっている。
角川祐智とは、そんな少女だった。
最初のコメントを投稿しよう!