良きかな。

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おいおい何を言い出すんだあの馬鹿は? 「ちょっ、ちょっと待て…!」 俺は急ぎ門扉を抜けて、やつのそばまで駆けつけた。 お前は見ず知らずの人間へのマナーというものを知らんのか。 「いきなり何言ってんだよ。ていうか、 処分云々はお前が言えることじゃねぇだろ……」 声量抑えて怒鳴りつつ、ちらりとやつの前を見て、 俺ははたと声を止めた。 御老の顔が変化している。 硝子に入ったヒビのように変わりようがないと思われた顔面のしわが微妙に形を変えていた。 笑っているとなれば、何が気に入ったかはさておいてよしと言いたいところだが、そうじゃない。 その顔はどう見ても不機嫌極まりないものだ。 ああ、まったく面倒なことを。 「と、なんか、突然すいませんでしたっ!」 まだ何事かを言い募ろうとする武智の両腕を鷲掴み、 俺はその姿勢が許す限りで頭を下げる。 愛想の良い笑顔でもって先の主張を繰り返すやつを羽交い締め状態へ持ち込むと、 後ろ向きに引きずって家の敷地外へ後戻る。 ったく、この暑い夏の日に、 なんで男と密着してるんだ俺は。
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