良きかな。

11/68
前へ
/68ページ
次へ
「もういい! 遅刻するぞ走れ!」 元の道まで引き戻すと、 やつの背中をバシバシ叩いて走らせる。 太陽は憎たらしいほど照りつけて、 アスファルトが早くも熱を放っていた。 本当なら歩いていけるはずだったんだ、 少なからず恨むぞ武智。 「せっかちなやつだな神原君。 もう少しあの場に留まろうと、 学舎の掟に背くこともあるまいに」 「校則って言えまどろっこしい! 大体おまえ、いつ盆栽なんて覚えたよ? 校庭の花壇にも興味持ったことないくせによ!」 「盆栽? そんなものに興味はないが」 まーた妙なこと言い出したよ。 今度は一体どういうことだ。 「じゃあなんでこんなに時間掛けた!」 「あれが素晴らしかったからに決まっている! ああ、通学の途上でよかった、そうだろう? また見る機会があるというものだ!」 嬉々として顔を輝かせながら、 一度走ると決めた武智の足はこれでもかとよく回る。 やおら手足の長い人間よりよほど目を引く俊足が、だんだんと俺を引き離していった。 くそう、なぜこうなる。 「おい……ちょっ……待て置いてくな!」 ずり落ちた鞄を肩に戻し、 俺はなんとか足の回転を早めた。 *
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加